PSF経営とナレッジ・リーダーシップ

■何故、PSFなのか?(デービッドに聞く)

いま、なぜ、PSF(プロフェッショナル・サービス・ファーム)が重要なのだろう? デービッド・メイスターと紺野登(『脱「でぶスモーカー」の仕事術』あとがきの解説者)のウェブ対談。

知識経済の時代の経営

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紺野(以下K):デービッド、今日はありがとう。さて、トム・ピーターズはPSFこそ次世代の経営・組織のモデルとしてベストだと言いましたね。何故なのでしょう?


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メイスター(以下M):知識経済の進展という大きな流れもありますが、これまで、いかなる経営においても「標準化」や「効率化」が行き過ぎ、それに対しての、顧客に対するカスタム化された価値の提供が重要になってきた、という変化があるでしょう。顧客はますます彼らに適した形での価値や経験、それを提供者である企業と共に生み出したいと思っているのです。これは業種を問わず、PSFが重要になるひとつの理由です。

K:一方、クリエイティブ・クラス(=創造階級。都市学者、R.フロリダの用語)のような創造的なナレッジワーカーの台頭という背景もありますね?

M:バイオリン奏者やスポーツ選手と同じように、驚くべき力を生み出すためには、目先の苦痛を超えて長期の成功を目指すようなエネルギー、それを引き出すマネジメントが必要になります。それを組織的に行うのがPSFなんです。

日本企業にとってのPSF

K:なるほど。では、リーマン・ショック以降の資本主義経済の変化という大きな波のなかで、PSFはどのような意味を持つのでしょうか?

M:一部のPSFが過信によって暴走していく可能性があったことを私は本書(『脱「でぶスモーカー」の仕事術』)の中でも忠告しています。彼らは本来のPSF経営の本質を忘れてしまった。自己満足的でないプロフェッショナリズムに基づく経営が求められています。PSFは目先の利益に左右されない、実践に基づく経営なんです。その意味で、PSFはあらためて個々の従業員の現場からの力を重視するという意味を持っています。

K:しかし、それは本来、日本の製造業が伝統的に持っていた資質のようにも思えますが。

M:そのとおりです。ただし、最近日本企業はそうした伝統を失いつつあるようにも思えます。そのことを日本語版まえがきにも書きました。また、過去のこれまでのすべてが良かったわけではありません。日本企業はより個を重視しつつ、現場の創造性や活気を生み出す努力をしなければなりません。

K:確かにそうですね。また、これまでどうしても日本は製造業中心の産業で、モノづくり立国を目指してきた。これはこれで重要なのですが、それだけでは経営が行き詰まってきた。たとえば日本の製造業の利益率はとても低い。見える化など改善の力はあっても、創造性は生まれてこない、そこで、顧客との関係性、つまり、サービス的な現場からのコトのデザインのなかに、モノづくりの知識・能力やモノを埋め込むようなモデルへの転換が求められています。

M:その点で、製造業にもPSF経営は重要な参考となるでしょう。それは「量の論理」から「質の論理」への転換でもあります。効率化のために集団で現場にべったりとはりついて仕事をするのではなく、創造的な個の働きを生み出すために「エナジャイズ」する組織やリーダーシップのあり方を見直す必要があります。

ワン・ファーム・ファーム

K:同感です。集団優先的な協業から、個をベースにした協業が企業や組織の新しい基盤となりつつありますね。では、それに絡めて、さいごに、PSFのあるべき姿であるワン・ファーム・ファーム(「ひとつの企業」としての企業)の意味について教えて下さい。

M:結局、これは私の考え、そして実践する方法にも結びつくのですが、それは、個人的なところから組織を見るということなのです。ワン・ファーム・ファームとは、いろいろな組織部門やグループ企業があっても、ひとつの目的や基準に向かって動く組織のことです。これは組織設計や制度設計の問題ではありません。基本になるのは、組織の人々が相互に共感しあえるということなのです。これは集団主義ではありません。個々人が、高い基準によって高い成果がもたらされるということについて信ずる、ということなんです。

K:いま日本企業に最も求められているのが、組織のカベを超えて協業できる「場」を構築することです。そういう意味でワークプレイスの重要性が増してきています。つまり、それは単に組織制度の問題でなく、組織文化の問題だということですね。はやり、いかにして組織内にそうした高い行動の基準を共有するか、だと思います。

M:究極には人間です。単に感情豊かな、快適な組織を創るというだけでは人々の力は出てきません。また、逆に恐怖をあおってもダメです。役員も人事部門も、自分の問題としてこうした問題をとらえていかなければワン・ファーム・ファームもかけ声だけに終わるでしょう。

K:お話を伺えば伺うほど、欧米的な分析的経営の限界、従来の日本的経営の限界を超える「第三」の経営モデルがPSFだな、という理解ができるように思います。デービッド、どうもありがとうございました。



(この対談は、2008年9月19日、ボストンでのデービッド・メイスターへの紺野登によるインタビューの内容をもとに再構成したものです)

2009(c)禁無断転載 本ページはDavid Maisterの許可を得て紺野登及びKIRO (http://www.knowledgeinnovation.org)が『脱「でぶスモーカー」の仕事術』のために制作しました。

脱「でぶスモーカー」の仕事術
トム・ピーターズが「プロフェッショナル・サービス企業経営の師」と仰ぐ、メイスターの最新作

PSFとは基本的には独立した「個」であるプロフェッショナルが、組織的に働くことのできる企業である。本書はプロフェッショナル・サービス・ファームに関わる人々のために書かれたものだが、冒頭で触れられているように、メーカーも含む多くの業種の人々に大変有意義なものとなっている。会計事務所やコンサルティングファーム、シンクタンクや広告会社やリクルート・サービスなどだけでなく、たとえば、メーカーの新事業開発プロジェクトチーム、研究所、デザイン部門などにも有意義だろうし、製薬会社のMR(営業)、ソリューション営業、ITサービス業(システムインテグレーター)、建築事務所、デザイン事務所、あるいは公共サービスからNPO、そしてもちろんスポーツジムやホテル、歯医者、葬祭業等々、顧客との直接的関わりを通じて価値を生み出すことを狙い(戦略)とする多くの人々(マネジャー)にとって、感動的な発見(あるいは耳が痛い経験)をもたらすだろう。

デービッド・メイスターについて

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